種々二次電池系の理論容量と実際の容量(β版)

 

種々二次電池系の理論容量と実際の容量に関する情報検索とまとめ

 

【理論容量】

 

各種金属の特性と理論容量を表1にまとめた。

単位重量当たりの理論電気容量(mAh/g)で比較した場合には,密度の一番小さなリチウムが,最も大きな値となっているが,単位体積当たりの理論電気容量(mAh/cm3)で比較した場合には,密度の大きな亜鉛,アルミニウム,カルシウム,マグネシウムのほうが,リチウムよりも大きな値となっている。金属電極としてみた場合には(金属イオン電池ではなく金属電池として金属そのものをを負極として用いた電池の容量としてみた場合には),ナトリウムは,単位重量当たり及び単位重量当たりの理論電気容量(mAh/g)ともに,他の金属よりも小さな値となっている。

 

表1 各種金属電極の特性と理論容量 [1-3]

 

 

 表1に示されるように,Liは,非常に大きな理論電気容量(38610mAh /g ,Li )を有しているが,Li金属をそのまま二次電池の負極に用いることはできない。これは,充電の際に負極上にLi金属のデンドライト状の析出が起こり,電池の内部短絡が生じる問があるためである[3]。

そのため,Liイオンのインターカレーションを利用したグラファイト負極(372 mAh/g ,LiC6)が用いられている 。

 

グラファイトの理論容量は372mAh/gで,初期放電容量は300~350 mAh/g。

層間距離は放電時では0.335 nmだが,充電時には0.370 nm(LiC6)に拡大する。

比重は2.1~2.25g/cm3 [4]。

 

Liイオンのインターカレーション反応を利用したリチウムイオン電池(LIB)においては,正極には,コバルト酸リチウムLiCoO2等のリチウムを含む遷移金属酸化物が用いられている[4]。

この時のリチウムイオン電池の充放電反応は以下となる。

 

 LiCoO2+ 6C  ⇔ Li(1-x)CoO2+ LixC6 (x≒0.5)

 

コバルト酸リチウムLiCoO2 の(比重2.0~2.6 g/cm3)の電気化学的に計算される理論容量は274 mAh /g であるが,実効容量は約半分の約150 mAh /g 前である。これは充電により約半分のリチウムイオンを脱離させると(x≒0.5),結晶構造的に六方晶から単斜晶への相転移が起こることによるためであると考えられている[5]。

 

二次電池のエネルギー密度は,正極電位,負極電池,正極容量,および負極容量から以下のように考えられる[3]。

エネルギー密度 ∝ (正極電位ー負極電位)x [ 1/ (1/正極容量 + 1/負極容量)]

 

↑定性的な表記。実際には,下記の例のように,正極及び負極の重量比などの因子がある。

 

リチウムイオン電池についてまとめると[6-8] ,

重量エネルギー密度:201(mWh/g) 

体積エネルギー密度:520(mWh/cm3

負極容量:(炭素材料系,LiC):372 (mAh/g )

正極容量:現状のリチウムイオン電池の正極材の容量は150~200 mAh/gレベルで種々材料系の開発が行われている。

リチウムイオン電池の種々正極および負極の理論容量(mAh/g )に関しては,Ref.8を参照。

 

リチウムイオン電池における材料の比率の計算例 [8]

(例)リチウムコバルト酸化物(LiCoO2 )を正極に、グラファイトを負極に使用した場合。

 

・リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)の理論容量:約 274 mAh/g (← 実際は約半分の150 mAh /g)

・グラファイトの理論容量:約 372 mAh/g

 

それぞれの活物質の質量を0.5gとして、理論容量(mAh/g)と質量(g)を掛けることで、理論容量(mAh)を計算

 

・リチウムコバルト酸化物の理論容量:274 mAh/g × 0.5 g = 137 mAh

・グラファイトの理論容量:372 mAh/g × 0.5 g = 186 mAh

 

電池の容量は、正極と負極のうち、容量が低い方に制限される。この場合、リチウムコバルト酸化物が制限要素となる。

したがって、この電池のおおよその(理論)容量は137 mAh/gとなる

電池の容量は、正極と負極のうち、容量が低い方に制限される。したがって、両者の容量が等しくなるような重量比を求める必要がある (上記の組み合わせの場合 157.9 mAh/g) [8]。

 

エネルギー密度(mWh/g)= 容量(mAh)× 電圧(V)/ 質量(g)

 

リチウムイオン電池の場合、充放電時の平均電圧はおおよそ3.7V,

157.9  (mAh/g) x 3.7 (V) = 584 mW/g

しかし、電池としての重量エネルギー密度は、この理論値のように大きくはなく,リチウムイオン電池の一般的な容量は250 (mWh/g)とされている。実際の電池の容量は、理論値の半分程度になる [8]。

 

 

【多価イオン電池の意義】

 

  Mg,Ca,Al などの多価カチオン元素は金属負極としての容量が高く,さらに重要なこととして,これらの多価イオン

金属は,充電時にデンドライト電析が起こりにくい傾向があるため,ポスト リチウムイオン 電池(LIB)の候補として,多価カチオン電池研究が盛んに行われている.多価カチオン電池は,一般に,負極に金属負極そのものを利用し,正極に多価カチオンが挿入・脱離されるホスト材料が想定されている.金属負極の使用によって高い容量を得られる[3] 可能性がある

 

↑リチウム金属は3860(mAh/g)という非常に大きな理論容量を有しているが,Li金属のデンドライト状の析出が起こり,電池の内部短絡が生じる問題があり,負極に金属そのものを用いることができないのに対して,多価イオン電池では,非常に大きな理論容量を有する金属そのものを負極に利用できる点のメリットがあるという理解でよいだろうか。

また,比重がリチウムやナトリウムより高いので,体積エネルギー密度が非常に高いものとなっている。

資源量や資源の地域的な偏在の問題の点からも,リチウム以外の元素の電池系の開発を行っておくことは,今後ますます重要となる。

多価イオン電池では,まずは,電解質の安定性や正極の問題が越えなければならない課題となっているように思われる。

多価イオン電池系では,現在進行形で様々なグループからデータの報告がある状況となっている(今後β版に追加していく予定)。

 

私たちが検討を行っている,金属(Mg, Zn)ヨウ素イオン二次電池の場合には,負極が金属(Mg, Zn)とヨウ素イオン,正極が炭素材料とリチウムイオンからなる酸化還元系になっているので,単純に理論容量から言えば,炭素材料正極(372 mAh/g ,LiC6)が電気容量を制限することになるが,将来的にLIBで研究開発が進められているシリコン負極材料(理論容量密度 4200 mAh/g,Li4.4Si)を用いることができれば,多価イオン系の金属の非常に高い容量を生かすことが可能になるかもしれない(←様々な課題があり,現時点では夢のような話ではあるが,研究開発に夢の要素がなければただの苦役でしかない)。

 

 

種々の電池系の理論容量と 実際の容量などを再検証してみて,

いままでは,LIBにはとても届かいない,別の世界の話,と思っていた認識が変わってきた。

 

 

 (Ref.)

(1) マグネシウム二次電池

 

(2) https://www.lpd-lab.com/2023/09/19/マグネシウム合金二次電池用負極材の開発/

 

(3) https://www.lpd-lab.com/2023/11/07/多価カチオンを利用した-新型蓄電デバイス開発に向けた基礎的研究/

 

(4) https://engineer-education.com/lithium-ion-battery02_anode-material-basic/

 

(5) リチウムイオン電池用正極材料 コバルト酸リチウム開発の流れと今後の方向性

      https://www.nippon-chem.co.jp/dcms_media/other/cre2004-7.pdf

 

(6)  リチウムイオン電池の基本(日刊工業新聞)

   https://pubdata.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file4fa08a3c3ccbf.pdf

 

(7) http://amaz-tech.co.jp/j_all/trivia/210520_capacity.html

 

(8) https://hasimoto-soken.com/archives/7197

 

 

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