ウェアラブルUHF帯RFIDタグ

 

ウェアラブルUHF帯RFIDタグ

ICT(Information and Communication Technology)においては,センサーは言うまでもなく重要な要素であり,トリリオン・センサー(trillion sensor,1兆個のセンサー)によるネットワークが張り巡らされた近未来社会像が予想されています。現在でもすでにIoT(Internet of Things,モノのインターネット)で表現されるように,多くのモノがインターネットにつながった社会となっていますが,将来はそれがヒトやロボットに拡張され,セキュリティーや効率化の向上が飛躍的に進んでいくと考えられます。総務省のホームページで公開されている資料においても,様々なワーキンググループによって近未来の社会インフラに関する議論が積み重ねられていることがわかります。

 

トリリオン・センサー時代の課題の一つとしてあげられるのが,センサーの電源の問題です。膨大な数のセンサーの電池をいちいち交換するのでは,あまりに非効率で非現実的です。その解決策として,以下の総務省HPで公開されている資料では,空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの検討が行われています。ワイヤレス伝送(WPT, Wireless Power Transfer)システムにおける伝送可能な距離は,周波数が高くなるほど長くなりますが,まずは,IoTにおいてモノの管理に普及しているUHF帯(920MHz帯)が想定されています。送受信機の出力にもよりますが,1W系ですと10m前後の通信距離がとれます。これに伴い,電波法関連の制度整備も進んできています(”電波での給電利用可能に”,朝日新聞 朝刊,令和4年3月8日)。

 

このようなセンサーネットワークは,モノの管理からヒトのセキュリティー管理等へと広がっていくことが想定されますが,ここで課題となるのが,”既存のUHF帯RFIDタグを人体に装着すると通信感度がほとんどなくなってしまう”という問題です。これは,人体が大量の水でできた高誘電体であることに起因しています。

 

私たちは,近未来のICT社会でのセンシングに向けて,人体のような高誘電体に貼付しても通信障害の生じないウェアラブルUHF帯RFIDタグの研究開発を行っております(特願2022-074173,2022-074174)。この問題の解決には,RFIDタグのアンテナ部を高誘電体に特化した構造にする必要がありました。オンデマンドなレーザープロセッシング技術は,アンテナ構造のデザインと試作において,非常に効率的な研究手法です。

出典(総務省ホームページ公開資料)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000730874.pdf

 

 Fig.2には,私たちが開発したRFIDタグを医療用テープで肌(肩)に装着した状態(Fig.1)において,RFIDタグとRFIDタグリーダ・ライタとが通信可能な距離を,フリースペース(空気中)での値と比較したデータを示しました。このデータではアンテナの長さの影響を見ています。人体と空気中とでの,ある形状のRFIDタグの通信距離は,3cm前後のところで逆転しており,空気中に比べてより短いアンテナ長の構造が,高誘電体である人体での使用において好ましいという結果になっています。通信距離は,アンテナ形状にも顕著に依存します(特願2022-074173,2022-074174)。

 

動画1では,電磁界解析によって計算を行った,ある構造のアンテナにおける電流分布およびベクトルの変化を示しています。RFIDタグの構成は,RFID用ICを配置したインピーダンス整合部とアンテナ部とからなっています。動画では,中央の略矩形状に開口となっている部分がインピーダンス整合部で,その左右に伸びる部分がアンテナ部になっています。RFID用ICには,数十Ωの内部インピーダンス(統一されていない)があり,インピーダンス整合によるマッチングが必要となります。中央の略矩形状の開口部は,複素インピーダンスを有しており,誘電体に接触した場合には容量性の成分が支配的になります。このため,既存のRFIDタグの場合には,人体のような高誘電体と接触したときには,インピーダンス整合がとれなくなり,通信障害が起こってしまいます。このようなインピーダンス値は,開口部だけでは決まらず,その周囲のアンテナ構造の影響も受け,非常に複雑です。RFIDタグの構造最適化は,電磁界解析のみでは予想が難しく,実際にデザインしたものを試作して実測しながら最適化を行うことが必要となります。オンディマンドなレーザープロセッシングは,そのような試作を繰り返し行うことが必要な研究開発に適した手法です。

 

 

Fig.1 肌(肩)に装着したウェアラブルUHF帯RFIDタグ.

Fig.2 フリースペースおよび肌(肩)に装着した場合のUHF帯RFIDタグのアンテナ長と通信距離との関係.


【動画1】UHF帯アンテナの電磁界解析による電流分布およびベクトルの変化.

 

UHF帯RFIDタグの製作には,通常は大掛かりな大量生産装置と多大な経費が必要となり,小ロットでのカスタム品の製造を行うことは困難です。弊社ではレーザープロセッシングにより種々のユニークな特性を有したUHF帯RFIDタグを低コスト・少枚数でカスタム製造・試作できます(特願 2022-109329)。