平面型マイクロスーパーキャパシタ(MSC),多孔質導電性カーボンくし形電極

 

平面型マイクロスーパーキャパシタ(MSC)

マイクロスーパーキャパシタ(MSC, micro-super-capacitor)は,電極の電気二重層にイオン種が物理吸脱着することで充放電が起こるエナジーストレージデバイスで,電気二重層キャパシタとも呼ばれているものです。電荷を対向電極に蓄えるキャパシター(Fig1a)では,急速な自己放電が起こってしまいますが,MSCではイオン種の物理吸着によってエネルギーが蓄えられるために,キャパシタよりもはるかに自己放電が少なく蓄電が保持される特性を有したデバイスです。

 

従来のMSCは,Fig.1bのような対向電極とセパレーターとからなるサンドウィッチ型で,これはリチウムイオン電池と同様な構造となっています。

これに対して,平面型MSCは,Fig.1cに示すような,くし形電極と電解質とからなる構造で,近年諸外国の研究機関で精力的な研究が行われてきています。我が国では,私たちのグループが先駆的な研究報告を行ってきました。平面型MSCにおいては,樹脂フィルム基材へのレーザー直接描画による導電性カーボンくし形電極のっ作成が有効な手法となっていますが,レーザープロセッシングと電気化学の分野とが,かなり異分野であることもあってか,我が国では平面型MSCの検討がほとんど行われていない現状であるように思われます。

 

以下の動画1では,フレキブルなフィルム状の平面型マイクロスーパーキャパシタ(In-plane micro-supercapacitor, MSC)を,ソーラーセルのバックアップ用エナジーストレージデバイスとして用いています。動画の20秒前後のところで,MSCが折り曲げられているにも関わらず,動作しています。これは,平面型MSCの電極が,セパレーターを必要としない,導電性カーボンくし形電極からなる構造であることによります。平面型MSCは,折れ曲がりが想定されるウェアラブル用途においても安全性の高いデバイスです。

Fig.1 種々キャパシタ構造の比較.

Fig.2 スーパーキャパシタ(電気二重層キャパシタ)のイオン種の吸脱着による充放電機構.


【動画1】ソーラーセルのバックアップ用エナジーストレージデバイスとしてのフレキブルなフィルム状の平面型マイクロスーパーキャパシタ(In-plane micro-supercapacitor, MSC)の特性のデモンストレーション.

平面型MSCに関しては,中国やアメリカ等で集中的に研究開発が進められていますが,今のところは,まだ実用化段階にはないのが現状です。これは,平面型MSCに適したアプリケーション,例えば,フレキシブルウェアラブルデバイス,環境エネルギー給電型デバイス,ワイヤレス給電型センサー等の次世代に期待される応用分野が立ち上がっていないことも原因となっていると思われます。単に,蓄電容量を上げるのであれば,厚さ(充放電に関わる物質量)で容量の稼げる従来型のMSCのほうが有利となります。それ以外の特性,薄さ,柔軟性,安全性といった平面型MSCの特徴を生かすことのできるアプリケーションを同時に開拓していくことが,課題になっていると考えています。

 

Fig.3 平面型MSC試作サンプル.


疑似スーパーキャパシタ

平面型MSCの課題としては,静電容量およびエネルギー密度のさらなる向上,酸性ゲル電解質に代わる安全な固体電解質系の開拓等があげられます。私たちは,ポリビニルアルコール(PVA)と酸化還元系化学種等からなる固体電解質の検討と,イオン種の電気二重層への物理吸着による静電容量と化学種の酸化還元反応による二次電池的な充放電特性を併せ持つ疑似スーパーキャパシタ(pseudo-supercapacitor)の研究開発を進めています。疑似スーパーキャパシタにおいては,二次電池的な特性が加わるために,静電容量およびエネルギー密度の大幅な改善が可能です。しかし,放電電圧において課題があり,現在Fig.4のような直列接続型のカーボンくし形電極を,レーザープロセッシングで作成し,特性のさらなる向上を進めています。Fig.4のカーボン電極は,汎用樹脂フィルムや紙(Fig.5),不織布シートのレーザーカットと導電性カーボン塗料のコーティングによって作られ,表裏両面がカーボンくし形電極として働き,くし形電極間のホールに固体電解質を保持することができる構造となっています(特願2020-193710

)。

Fig.4 2直列型カーボンくし形電極.

Fig.5 紙基材ベースカーボンくし形電極.


 

以上は,私たちが提供できるサービスの一例です。いずれもオンデマンドなレーザープロセッシングで製作できます。カスタマイズやサンプル試作が可能です。弊社では,レーザープロセッシングによる平面型MSC用電極作成,平面型MSCデバイス試作,およびデバイス特性の評価を行っております。