マクネシウムの表面現象と酸化皮膜の成長

 

小野 幸子(工学院大学工学部),

表面技術,62(4),198(2011),

 

Surface Phenomena and Oxide FiIm Growth on Magnesium,

Sachiko ONO,

n Faculty of Engmeering, KogakuinUniversity,

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/62/4/62_4_198/_article/-char/ja/

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/62/4/62_4_198/_pdf

 

↓マグネシウム二次電池において,マグネシウム表面の酸化被膜等の不動態皮膜形成は,解決しなければならない重要な課題となっています。この文献は,マグネシウム二次電池に関するものではありませんが,マグネシウムの表面酸化が起こる条件や,マグネシウム合金における添加元素の影響に関して,非常に貴重な情報を与えてくれており,感謝です。

 

 「2 .マクネシムの表面酸化挙動と合金成分の効果

マグネシウム素材自体の耐食性は,鉄やニッケル,銅など重金属イオンの存在に強く依存するため,それらの除去によって顕著に向上した。さらに,アルミニウム,マンガン,亜鉛,希土類元素などとの合金化を進めることによって近年著しく改善されてきた。これらマグネシウム合金の耐食性向上は素地金属の組織変化のみでは十分説明できず,表面の酸化皮膜生成挙動に対する合金元素の効果を考慮する必要がある。」

 

「マグネシウム (Mg) の腐食速度は,アルミニウム (AI) を数パ ー セント添加することによって著しく低下することが知られている。この効果は種 々 の異なるマグネシウム合金においても,アルミニウム濃度の関数として表すと, 4 ~ 5 wt% 前後を閾値としており,これ以上の添加量でいずれも急激に腐食量が下がることが報告されている。Nordhen ら は真空中で MgAl 合金の新生面を出し,酸素を導入して生成した酸化皮膜中の AI 濃度を xps により定量した結果,素地中のAI 濃度が 5 %以上の場合に,酸化皮膜中には 35 at% に達する顕著な AI の濃縮が起こることを見出した。この事実から,表面酸化膜の性質が素地金属の耐食性の強い制御因子になることが確認された。」

 

「さらに大気中に放置すると,空気中の水分がはじめに生成した皮膜を内側に移動し皮膜/素地界面で 100 Ⅱ m から 500 Ⅱ m 程度の厚い酸化膜が生成する。・・・品質の皮膜が生成する 6 )。さらに大気中に放置すると,空気中の水分がはじめに生成した皮膜を内側に移動し皮膜/素地界面で 100 nm から 500nm程度の厚い酸化膜が生成する。」

 

マグネシウム素地中へアルミニウムを添加することで,れらの大気自然酸化皮膜の構造は大きく変化し,その膜厚はAI 添加濃度の増加とともに直線的に減少する。 特にその変化は AI 濃度 4 ~ 5wt %程度までが顕著であり,それ以上の添加ではあまり変わらないが,この結果は先に述べた腐食速度および XPS による酸化皮膜中に封入されるアルミニウ ム量の変化と一致している。皮膜に濃縮された AI は皮膜中でアルミナの骨格構造を形成するため水和を妨げて皮膜を安定化し,マグネシウムの不働態性を高める役割を果たすと言える。」

 

↑上記のような純マグネシウムとマグネシウム合金の違いは,私たちが検討を行っているマグネシウムヨウ素イオン二次電池においても観測されています。純マグネシウムとマグネシウム合金(AZ31)を負極として用いて比較を行った場合,充電から放電に切り替わった直後および初期のRIドロップの大きさは,純マグネシウムにおいて非常に顕著となります。純マグネシウムの場合には,初期のIRドロップが次第に減少していき,一定値に落ち着きます。これは,不動態皮膜で覆われたマグネシウム電極表面が放電電流が流れるのにともなって次第に露出していく現象と思われます。マグネシウム合金の場合には,その時のIRドロップ値といいますか過電圧には,上記の論文で述べられているようなAlが濃縮された酸化膜の存在が影響すると思われます。そのような過電圧を低減するためには,マグネシウム合金が腐食しやすくなる条件(鉄やニッケル,銅など重金属イオンの添加)ということになるのかもしれませんが,それが過度の場合には,酸化被膜が形成されやすくなり,初期のRIドロップが顕著になることも想定され,最適な元素組成,元素種があるのかもしれません。

 

 

「図 2 に種 々 のマグネシウム合金におけるアノ ー ド分極曲線を示す 。 99.95 %の純マグネシムでは,自然電極電位から立ち上がる電流が 0v 付近で不動態化のために停滞するが, 2V を越えると電流が再び急上昇し,その後 5v 付近での極大を経て減少し 10V から 50V まで低い電流値を保っという特異な分極挙動を示す。 AZ31 ( Al 3 %, Zn 1%)では停滞領域が広がり 5V 付近での電流ピ ー クはやや減少する。しかし AI を 6 %含む AZ 61 では 5V 付近の電流ピ ー クが消失した。 AZ91 ( Al 9 %, Zn 1%)になると電流値は全体に低下し,さらに 5 V 付近での電流ピ ー クも見られない。このように,素地中に含まれる AI が表面の不動態性を顕著に高めていることがわかる。」

 

この電流ピ ー クはアルカリ性電解液のみで特徴的に出現し,中性や DW17 のような酸性電解液では観察されず,アルカリ性溶液中で不動態化するマグネシウムに特徴的な挙動である。」

 

↑これは,これまでのマグネシウム二次電池関連の文献や特許公報と,現象的に一致している。

やはり,それに好適な非液体電解質系をどう考えていくかがポイントとなるのだろうか。

 

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